NORM株式会社

THE NORM NUTRITION JOURNAL -いわきFC-

MEDIA

2025年9月30日

”限界まで追い込む” -ストレングストレーニング×栄養が導くフィジカル強化-

 2023年1月、NORMはサッカーJ2リーグのいわきFCとのビジネスパートナー契約を締結した。NORMといわきFC は「栄養」の分野においてタッグを組み、血液検査の結果などをもとにした、科学的根拠に基づく栄養サポートやサプリメント提供によるトータルサポートの体制を構築している。

 このコラムでは、NORMがいわきFCに派遣し栄養サポートを行う、管理栄養士/公認スポーツ栄養士・飯澤拓樹が、選手達の食事情やスポーツ栄養にまつわるさまざまな情報をお伝えする。

◆真価を発揮する、いわきFCの「止まらない、倒れない」サッカー

 長かったJ2リーグ2025シーズンも、残り約2か月となりました。選手のみならず、スタッフ、そしてファン・サポーターの皆さんも疲労がピークに達している時期ですが、いわきFCの選手達はそれを感じさせない「90分間止まらない、倒れない」魂の息吹くフットボールを体現してくれています。終盤戦のいわきFCの熱い戦いに、毎週胸を熱くしている方も多いのではないでしょうか。もちろん、私もその一人です。

 いわきFCはなぜ「止まらない」のか?なぜ「倒れないのか?」 その答えの一つに、いわきFCの大きな特徴でもあるストレングストレーニングやスプリントトレーニングがあると思います。今回のコラムでは、いわきFCの選手が取り組む、“ストレングストレーニングと栄養”にフォーカスし解説したいと思います。

◆いわきFCが取り組むストレングストレーニングとは?

 いわきFCでは、『日本のフィジカルスタンダードを変える』という標語があるほど、身体作り、特にストレングストレーニングに力を入れています。シーズン中であっても、週に2回ほど、チーム全体でのウエイトトレーニングを実施しています。これは他のクラブでは類を見ない取り組みです。シーズン途中に加入した選手と面談をした際、身体の状態を聞くと「ハンパないっス。毎日、筋肉痛で…。こんな状態で試合に出たことないですよ!笑」と半ば悲鳴のように話してくれました。選手によれば、いわきFCの練習は圧倒的に厳しいとのことです。

 そうした選手の食事を見て私が感じたのは「圧倒的に食べる量が少ないな」ということ。それまで長くプロのキャリアを歩んできた選手でも、それまでの食べる量(エネルギー摂取量)では、いわきFCのトレーニングや、要求されるフィジカルスタンダードを達成することはできません。選手と面談を行い、日々の食事量や内容、栄養補給のスケジュールを確認。日々の体重変化、定期的に行われる体組成測定の結果などを基に、トレーニングでの消費量や選手の食欲などを考慮してアドバイスを行います。胃腸も筋肉で作られていますので、内側から(内臓)もしっかり鍛えるのです。

 「選手は本当にすごい!」と思うのは、そう話をしてくれた選手達が、加入して1-2か月経った頃です。徐々にその“ハンパない”トレーニングに適応するのです。食事の量も、明らかに増えています。はじめの頃は「食べすぎて胃が苦しいです」と話していた選手も、徐々に問題なく食べられるようになります。エネルギー摂取量が増えれば、それだけトレーニングに耐えることができますから、加入2か月もすれば、見違えるほど身体が変わり、試合で大活躍をしてくれます。アスリートサポートはとても面白いですね!

◆アスリートに必要なたんぱく質量は?

 「フィジカル強化」の一つの指標として筋量の増加、つまり筋肥大を重要視しています。前述のように筋肥大のためには食事量の増加(=エネルギー摂取量の増加)が必要ですが、個別の栄養素で考えると、たんぱく質の摂取が大変重要になってきます。筋肉の構成成分であり、また筋肉を合成するスイッチでもあるたんぱく質、フィジカル強化に向けてどのように摂取するのがいいのでしょうか?

 身体作りに取り組む際、良く勘違いしてしまうのが「たんぱく質を摂ればとるほどいい」ということです。確かにたんぱく質は重要ですが、実は最新の研究からそのような考え方は支持されていません。アスリートにおけるたんぱく質摂取については、いくつかの国際的なガイドライン1,2から、「1日あたりおよそ1.2~2.0g/kg体重」の摂取が必要といわれています。また、別の研究においてもストレングストレーニングと共に、「1日1.62g/kg体重」のたんぱく質摂取が筋肥大には有効との報告3があります。これらの知見を統合すると、例えば70kgの選手であれば、1日を通じておよそ112g(目安として84〜140g)のたんぱく質摂取が求められることになります。

 一方で、目標量を大きく超えた過剰摂取は逆効果になる場合もあります。

  • 代謝亢進によるエネルギー消費増加:たんぱく質は消化・吸収の過程でその一部のエネルギー(カロリー)を熱として消費します。せっかく筋肥大を目的に食事量を増やしても、たんぱく質を摂りすぎると逆に、エネルギーを消費してしまうのです。
  • 食欲の低下:たんぱく質は「食欲を低下させる」4ことが報告されています。疲労や暑さでただでさえ食べるのが苦しくなりますので、さらなる食欲低下は、避けたいところです。

 選手の中には「とにかくたんぱく質をたくさん摂る」ことを意識して栄養摂取に取り組んでいる方もいるのですが、上記のようなエビデンスを基に選手と話し合い、場合によってはたんぱく質の摂取量を抑えるようにアドバイスすることもあります。

 このほかにも、3回の食事のなかでも特に朝食で一定量を摂取するこ5や、1日を通じてこまめに摂取すること6など、たんぱく質ひとつでもいくつも考えることがあります。私は選手との面談や食事記録を見ながら、プロテインなども活用し、科学的根拠に基づいてより実践しやすく、フィジカル強化に効果的な栄養改善のアドバイスをするよう心がけています!

◆いわきFCのフィジカルスタンダード

 多くのアスリートはシーズン中に体重や筋量が減少することが課題となります。しかし、いわきFCの選手たちは反対に、シーズン中でも体重や筋肉量が着実に増加しています。まさに、これこそが「いわきFCのフィジカルスタンダード」だといえるでしょう。

 今シーズンも残りわずか。最後まで選手たちが戦い抜けるよう、全力でサポートしていきます。ファン・サポーターの皆さんも、ぜひ最後まで熱い応援をよろしくお願いします!

飯澤 拓樹(いいざわ ひろき)
管理栄養士、公認スポーツ栄養士、修士(スポーツ健康科学)  

新潟医療福祉大学卒業、福岡大学大学院修了後、スポーツサプリメントメーカーやスポーツテック企業を経て、ノーム株式会社に入社。 現在はいわきFCやホッケー女子日本代表さくらジャパンの管理栄養士を務めるほか、ノーム契約アスリートの栄養サポート、商品企画・開発に携わる。

 参考文献
1. Thomas, D. T., Erdman, K. A. & Burke, L. M. American College of Sports Medicine Joint Position Statement. Nutrition and Athletic Performance. Med Sci Sports Exerc 162, 543–568 (2016).
2. Jäger, R. et al. International Society of Sports Nutrition Position Stand: protein and exercise. J Int Soc Sports Nutr 4, 8 (2017).
3. Morton, R. W. et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med 52, 376–384 (2018).
4. Freire, R. H. & Alvarez-Leite, J. I. Appetite control: hormones or diet strategies? Curr Opin Clin Nutr Metab Care 23, 328–335 (2020).
5. Yasuda, J., Tomita, T., Arimitsu, T. & Fujita, S. Evenly Distributed Protein Intake over 3 Meals Augments Resistance Exercise–Induced Muscle Hypertrophy in Healthy Young Men. J Nutr 150, 1845–1851 (2020).
6. Areta, J. L. et al. Timing and distribution of protein ingestion during prolonged recovery from resistance exercise alters myofibrillar protein synthesis. Journal of Physiology 591, 2319–2331 (2013).